Last up date.2020.2.28
静岡 レインボー トレインズ トップページ > 静岡一番モノガタリ / 山葵の発祥の地と人のストーリー
静岡市街地から北へ車を走らせ1時間ほど。梅ヶ島温泉へ向かう手前の小高い山間いに、有東木という集落があります。急坂を登る間、斜面を覆うフレッシュ・グリーンのわさび田が、清流のきらめきとともに姿を見せました。海抜500mほどのところで、「遠くまで来てくれてありがとう」という一文を添えた看板と、農林産物加工施設「うつろぎ」の軒先が表れます。運転の疲れが、清々しい空気とせせらぎのなかに消えていきました。
わさびといえば天城が有名ですが、実はここ有東木こそが、栽培発祥の地。およそ400年前、有東木沢の源流に自生していたわさびを集落内の湧水地に植えたところ、適地で繁殖したのが始まりです。その後徳川家康公に献上、気品ある味わいが賞賛され、門外不出の御法度品に指定されました。わさびという字に“葵”が含まれることに、何かの因果を感じずにはいられません。現在も50件ほどのわさび農家が静かに生活する有東木。天城のような観光農園はないものの、集落の女性が集まり、蕎麦や定食を提供するうつろぎで、その味わいを賞味できます。
うつろぎの女性スタッフは委員長の望月さんをはじめ、とにかく元気いっぱい。優しさあふれる笑顔で、遠方から訪れた客をもてなしています。この施設は元々、地元有東木の女性が働ける場所を、という目的で20年前に開設されました。「最初は、こんなところに人が来るわけない。こっちから行かなきゃって、わさびを担いで街へ出かけました」という望月さん。1年、2年と続けて、次第に世間に認知されるように。今では県内はおろか、海外からも多くの人が訪れています。和食の評価が海外で高まっているなか、この先もより注目されそうなわさび。「今はもう、楽しくて仕方ないんですよ」と語る望月さんの夢は、自身の畑で収穫体験を楽しめるよう、観光農園を開くこと。地元で活躍する女性のパワーが秘めた可能性は、さらに広がっています。
「これどうぞ、お土産に」と、望月さんからいただいたわさび漬け。茎のシャキシャキとした食感、酒粕の甘さ、わさびの上品な辛さが溶け合い、有東木の風景が浮かぶような優しい味わいでした。実はわさびの栽培には肥料を必要とせず、綺麗な水と澄んだ空気があれば成長します。400年もの間、美しい環境が守られてきた桃源郷。その礎のもと、これからも新たな可能性、新たな芽が、すくすくと育っていくことでしょう。