静岡一番モノガタリ/ルビーピンクに輝く日本で“唯一”の味
ルビーピンクに輝く日本で“唯一”の味
由比港漁業協同組合
専務理事・望月武さん
「駿河湾のルビー」
由比港沖で桜えび漁が行なわれるようになったのは、明治20年代といわれています。それから現在に至るまで、正式な漁により桜エビを水揚げしているのは駿河湾のみ。桜えびはまぎれもなく、日本唯一の味覚です。
桜えびは由比港沖のほか、大井川港沖でも漁獲されています。由比港漁業協同組合(以下由比漁協)の望月武さんによれば、桜えびの生態はまだ詳しく解明できていないそう。ゆえに、なぜ駿河湾でしか獲れないのか。その理由も、推察や憶測しか存在しません。駿河湾は列島にある湾のなかで最も水深が深いことから、全国でも稀にみるほど多様な魚種が生息しています。昨今ブームとなっている深海魚もその一例。「良質な魚介類が育つ海域の特徴として、富士川や大井川など水質のよい河川の存在があります」と、由比漁協の望月さん。湾に注ぐ川の栄養分によって発生するプランクトンは多くの魚介類の食料になりますが、実は桜えびが食べるのもプランクトンなのです。生命を育むおおいなる川の存在。桜えびが生息する要因の裏付ともいえそうです。
「桜えび漁の起源について、おもしろい言い伝えがあります」と望月さん。なんと、初めての水揚げは“たまたま”だったとか。もともと由比はあじ漁が盛んで、現在でも続いています。時は明治27年、ある夜のこと。ふたりの漁師があじ漁で操業中、網につける浮き樽が外れ、網が海中深く沈んでしまいました。しばらくしてその網を引き揚げた時、透明に光る小さな生物が大量に掛かっていたのです。それが桜えびでした。あまり知られていませんが、海中にいるときの桜えびは無色透明。かわいい小さな体内に160個もの発光器があり、絶命後まもなく、あのルビーピンクに変化するのです。閑話休題、初の桜えび漁は、アクシデントが招いた僥倖でした。そして由比漁協の望月さんは、その僥倖を授かった漁師のひとり、望月平七さんの孫にあたります。
望月さんは、桜えび漁の起源に関するあらすじを、おじいさんから伝えられてきました。「桜えびの町」として由比を知ってほしい。たくさんの観光客を迎えたい。桜えびの食べ方を提案したい。その想いから、由比漁港内に「浜のかきあげや」を立ち上げたのが平成17年。看板商品である「かき揚げ丼」は、今では累計30万食を突破しています。「桜えびを食べるために由比に来てくれる人を、もっと増やしていきたいね」と望月さん。島国である我が国が抱く数多の海のなかで、駿河湾だけが有する特別な味覚。逆にいえば、桜えびにとって“いちばん”住みやすい環境が駿河湾ということ……。
静岡が誇る雄大な自然の恩恵を、感じずにいられません。
「駿河湾のルビー」と呼ばれる桜えび。体内にある発光器は旨み成分だ。
由比漁協の望月さん。桜えびのおいしさ、その認知度UPに貢献してきた。
由比港内にある「浜のかきあげや」調理場風景。組合の元気なスタッフが桜えびを使った丼メニューを提供する。
浜のかきあげやで食べられる看板丼の「桜えびかきあげ丼」、かき揚げ2枚を盛って750円。サクサクとした食感がたまらない!
漁期は春期(3〜6月上旬頃)と秋期(10月下旬〜12月下旬)の年2回。この時期、夜の海に浮かぶ船の明かりが見られる。桜えび漁は二艘一組で行なう。
桜えび漁に使われる船は港で横づけにされている。由比港沖ではほかに、しらす漁やあじ漁も行なわれている。