静岡一番モノガタリ / 駿河湾と深い話
日本でいちばん深い、神秘の湾
東海大学海洋学部 学部長 海洋地球科学科 教授
千賀康弘 さん
「静岡の未来を育む舞台」
伊豆半島最南端の石廊崎と、御前崎を結ぶ線に囲まれた海域である駿河湾。伊豆半島は元々、日本列島の南方に位置するフィリピン海プレートに浮かぶ、火山島のひとつでした。約60万年前、その島が火山活動により列島にぶつかり半島となったことで、駿河湾が形成されたといわれています。最深部の水深は2500m。日本列島にある湾のなかで、いちばん深い湾です。
絵画の世界では特に、美しい曲線で描かれた葛飾北斎の『富嶽三十六景』、横山大観の『海山十題』が有名です。「富士はいつでも美しい、いわば無窮の姿」という言葉を残した横山大観は、生涯をかけて無窮を追い、心の中にある富士山を描き続けました。
日本一の深海湾がもたらす恩恵は、一言では語りつくせません。日本の魚類は淡水魚をふくめ約2300種といわれていますが、駿河湾にはそのうち約1000種もの魚種が生息しています。清水港や沼津港などの一大観光地を含め、大小40以上ある漁港の存在は、大いなる駿河湾の生命に支えられてきました。「深いから魚種が多い。ではなぜ深いと魚種が多いのか。その理由は水温。水温は深さで変わり、深くなればなるほど冷たくなります。環境によって住む生物が変わるのは、自然なことですから」と、千賀さん。珍しい魚も多く、由比港沖に生息する桜えびは言わずもがな、静岡ならではの味覚です。昨今注目を浴びている深海魚もその一例。稲取や下田で揚がる金目鯛、戸田の高足ガニも深海魚の一種として、人々の食卓を楽しませています。「沼津の大瀬崎がダイバーのメッカである所以は、列島南岸から暖流の黒潮が流れ込むからなんですよ。水温が高い海中でしか見られない生物がたくさん見られるんです」。海について語る千賀さんは、とにかくイキイキとして楽しそう。水温の高い伊豆半島沖では、珍しい種のクジラの姿も確認されているのだとか。未知なる海の世界に広がる希望を、教授の目が物語っていました。
東海大学で学ぶ学生は、水族館の飼育員や航海士、水産食品開発、あるいは防衛省など、海に関わる職に就くことを夢みています。駿河湾という舞台で育った力。それが今も私たちのごく身近なフィールドで、花開いています。
東海大学の施設、東海大学海洋科学博物館の「海洋水槽」。二匹の巨大サメ「シロワニ」を観賞できることで人気。この水族館には東海大学出身の“サメ博士”が在籍している。
東海大学海洋科学博物館2階に展示されている「メガマウスザメ」の剥製標本。2014年に静岡市の倉沢沖で定置網に掛かっていた。同年、この博物館前で公開解剖を行なっている。
東海大学の海洋調査研修船「望星丸」。当該学生はこの船に乗り、駿河湾やその先の洋上で海を学ぶ。
駿河湾の神秘を語る、東海大学学部長の千賀康弘さん。
望星丸での研修の様子。駿河湾の不思議、海の不思議を解き、研究に活かす。
駿河湾の海底地形図。南海トラフの北端部に位置する駿河湾トラフが三保と大瀬崎の中間部に走る。最深部はこの駿河湾トラフ上。